濾過から始めるのだろうか・・・
まず、自分の水槽の水の流れをを考えてみよう。海水は循環しているので何所から考えても同じだが、
濾過槽の入口から考えるのが順当かもしれない。 私の水槽の場合、海水は水槽からO/F用の塩ビ管を通って落ちてくるが、この塩ビ管は
外・内の二重になっており、外側の管の下部 (水槽底から数cm) の所に穴が空いていて、水槽の水はここから入ってくる。そして少し短くなっている
内側の管の中へ落ちてくる。
水槽底面に食べかすや固形の汚物が溜まると考えれば、水槽の下の水を濾過槽に落とすのは納得できる。
そうして落ちてきた海水は濾過槽上部に設置された箱に入る。 この箱の中身はウールである。何故ここにウールを置くかというと、先ほどいったように
ここへ来る海水には大きなゴミや汚物が含まれているため、まずウールを使って、これらを漉し取ろうと言うわけである。 一般に、
これを物理濾過と呼んでいる。 なんとなく理解できる感じがする。 ただし、餌の残りなどは一旦ここに止まっても、流水によってやがて細かく砕かれ結局ウールを抜けてしまう可能性があるのではないかと思っている。 どの程度の厚さにウールを敷くのかも微妙で面白いかもしれない。
これで海水は一見奇麗になった様に思える。 この海水を本水槽に戻して魚が育ってくれたら、魚飼育は大変楽であると思う。 実際にはそうはいかない(らしい)。
ここからは、目に見えない世界の話になってきます。目に見えない世界をどうして書けるかと言うと、多くの優秀な先人達の努力によるのであって、そういう色々な事象が同じように自分の水槽にも起こっているであろうと想定して書くのです。
奇麗になったような気がする海水はどうなっているか・・・
想像すると、大きな固形のゴミは存在しないでしょうが、目に見えない物質、例えば糞に含まれるであろう色々な物質、あるいは、食べ物の残りかすが腐敗などをして姿を変えたものが存在しているかもしれないこと等はなんとなく想像できます。 それらに対抗するために、実際の水槽内で起こっている(起こさせようとしている)海水を十分にきれいする流れ(濾過)を左のフローで表してみます。
{a}餌や糞・・・
- 魚が食べ残した餌(高分子有機物)は、水槽内の様々な有機栄養バクテリアによって、炭素分はCO2に、窒素分はアンモニアに変化させられ、リンは溶解して燐酸に変化します。ちなみに、この有機栄養バクテリアは乳酸、コハク酸、酢酸なども生成するそうです。
- 魚が食べた餌は、一部は栄養となりますが、その後やはり炭素分はCO2、窒素分はアンモニアとなって水槽内に出てきます。
{b}アンモニア(NH3)
- 餌や糞は、アンモニアという形で水槽内に生成されてしまいます。 このアンモニアは魚を飼育する上で生成されるのは必然的ですが、非常に毒性が強く、魚を死なせてしまいます。 ただ、一口にアンモニアといっても、実際はアンモニア(NH3)とアンモニウム(NH4+)に分けられ、その性質も全く異なります。 水槽のpHが7以下の酸性側にあるときはアンモニウムの形で存在しますが、pHが上昇したり、水温が上昇するとアンモニウムに姿を変えます。 海水魚飼育の場合はpHが8.3程度を目標にしますので、アンモニアが発生されると考えられます。アンモニアは魚の皮膚を通過し、魚を死なせる危険なものですが、アンモニウムは魚の皮膚を通過できず安全なものといえます。しかし、前述したように、いつアンモニアに変化するかわからない危険な面も持っているのです。
{c}亜硝酸(NO2)
- アンモニアは大変に危険な物質であるので、これを何とかしなければなりません。餌を与えなければアンモニアは発生しませんが、魚が飢死にしてしまいます。せめて、「2,3分以内に食べ尽くしてしまう量を与える」 (どの人工餌の説明にも書いてありますね) ことに注意して、少な目の餌にするくらいしか出来ません。 それでも、魚が糞を出すことはどうしようもありません。
アンモニアを直接人間の手で取り除くことは困難です。アンモニアを取り除く吸着材もありますが、長期間安全に効力を発揮するかという点で疑問があります。 ではどのようにしてアンモニアを減らすかですが、自然界は偉大なもので、この危険なアンモニアを栄養として生きているバクテリアがいます。「アンモニア酸化菌」と呼ばれる一群のバクテリアです。代表格には「ニトロソモナス属」があります。 アンモニア酸化菌はアンモニアを活きるために取り込み、酸化し、亜硝酸イオンを生成します。 また、同じく「亜硝酸酸化菌」(代表格はニトロバクター属)が亜硝酸イオンを呼吸基質として取り込み、酸化して硝酸イオンを生成します。 これらのバクテリアは、アンモニアのある水槽内に、自然に同時に発生します。 生成された硝酸塩(イオン)はアンモニアに比べ、その毒性は殆どないといって良いものです。 一般には、このように酸化バクテリアにアンモニアを硝酸塩(イオン)に変化させてもらい、無毒化することを生物濾過(酸化濾過)といいます。 水槽に濾過槽を作り濾材を入れるのは、これらのバクテリアがこの濾材に定着してもらうためで、住処を与えることになります。
{d}硝酸塩(NO3)
.- 硝酸イオンは一部植物に吸収される以外は最終的に硝酸塩という形で水槽内に蓄積されます。硝酸塩は魚に対して安全性が高いとされていますが、多量に蓄積されると影響が出ますので、定期的な水換えにより水槽外に廃棄します。
このようにして、バクテリアと水替えにより水槽内の水は魚が飼育できるレベルに維持されます。
いくつかの追記・補足
●「アンモニア酸化菌」や「亜硝酸酸化菌」を、単に濾過バクテリア(の一部)と呼ぶ場合があります。
●「アンモニア酸化菌」や「亜硝酸酸化菌」を、好気性バクテリアまたは化学合成無機酸化独立栄養好気性細菌または硝化菌と呼ぶ場合があります。
●「アンモニア酸化菌」や「亜硝酸酸化菌」を、発生させるためには最初にアンモニア(魚)が必要です。
●アンモニアを硝酸塩に変化させることを「酸化」と呼ぶ場合があります。
●アンモニアを硝酸塩に変化させることを「硝化」と呼ぶ場合があります。
●「アンモニア酸化菌」は最短でも24時間以上、「亜硝酸酸化菌」は48時間の繁殖時間が必要です
●「アンモニア酸化菌」や「亜硝酸酸化菌」は主に濾材の表面に繁殖しますので、洗浄・交換で失われます
また、水道水の塩素でも死滅します。
新しい濾過・・・
上記した濾過が基本ですが、最近、これに加わる新しい濾過を行っている方が増えてきました。 左図を見てください。硝酸塩が生成されるまでの過程は全く同じです。
しかし、新しい濾過の考え方では、さらに硝酸イオンを亜硝酸イオンを介して、窒素ガス(N2)に変化させます。窒素ガスは水面から空中に拡散します。 この窒素ガスへの変化を行うのが脱窒素菌です。 上記の硝化菌とこの脱窒素菌が十分に活動し得る水槽では、硝酸塩の蓄積が少なく水替えによる硝酸塩の廃棄が極端に減少できメンテナンスフリーに近い環境と自然の海で行われている濾過循環を持ちこんだような世界が出来ます。(って、理屈ではですヨ)
脱窒素菌について- 脱窒素菌は通性嫌気性細菌と呼ばれ、酸素があれば酸素を呼吸し、酸素が存在しなければ、回りの化合物にある結合酸素を呼吸しています(嫌気的呼吸)。 水槽の中で、脱窒素菌が嫌気的な環境に置かれると、硝酸イオンの結合酸素を(呼吸基質として)利用するようになります。その結果、硝酸(NO3)が窒素(N2)に変化し、水槽から出て行きます。なお、脱窒素菌は硝酸を呼吸基質としているだけですから、いわゆる食べ物は他のものとなりますが、これは一般の有機物(らしい)です。
◎脱窒素菌を利用した濾過 (この当たりから混沌としてきます)
脱窒素菌による濾過を組みこんだシステムは幾つか存在していますが、(徳に魚を飼育するために)これで十分という方法はまだ確立していないようです。(と、思います)。
●ライブロックを利用した濾過・・・ライブロックは表面に酸化バクテリアが住んでいて濾過をしていますが、その酸化バクテリアの下のほうには脱窒素バクテリアが存在しています。 酸化バクテリアの下ですから、酸素は不足しており、酸化バクテリアが生成した硝酸イオンを呼吸基質にして脱窒素を行っています。
ここで不思議なのは、別にライブロックでなくとも一般の全ての酸化濾過においても硝酸イオンは発生されているのに、なぜ脱窒素濾過が行われないかということです。
実は脱窒素濾過はここでも行われているらしいのですが、濾過量が絶対的に少なく、無いも同然らしいのです。 なぜ少ないかというと、勿論脱窒素バクテリアが少ないからですが、どうもバクテリアに接する海水の流量と関係があるようです。水量の多いところでは脱窒素バクテリアの餌としての有機物を得ることが出来ずに、脱窒素バクテリアは発生または繁殖ができないのではないかということです。
●モナコ式水槽・・・特許が取られているために詳しい情報はわかりませんが、一般的な濾過装置は使用せず、水槽の底に珊瑚砂を厚く敷き詰め、ライブロックを多数投入します。 ライブロック表面と底砂表面で酸化濾過を行い、底砂の下のほうの嫌気域で脱窒素濾過を行います。 詳細な情報は公開されていません。
●プレナム水槽・・・ 基本的にはモナコ水槽のシステムに似ています。水槽の底に数cmの高さの空間が出来るように、脚のついたスノコ状のものを設置します。空間といってもスノコ状のもので持ち上げているだけなので、最終的には海水が入ってきます。その上に粗めの珊瑚砂を数cm敷き、仕切り(スクリーン)を敷いて砂が混ざらないようにして、上に細かな珊瑚砂を敷きます。水槽底から、
海水の空間、粗めの珊瑚砂、スクリーン、細かな珊瑚砂と三層構造を作ります。
更にその上にはライブロックを適量配置します。
これによると、ライブロックの酸化バクテリアの下酸化濾過はライブロックの表面と珊瑚砂の表面で行われ、脱窒素濾過はライブロックの酸化バクテリアの下と珊瑚砂の層の深い部分とで行われます。 また、最下部の仕切られた海水の部分を止水域といいます。これは脱窒素バクテリアの発生と活動を安定刺せる役目があるようです。(と思います)
このシステムだとライブロックのみの酸化・脱窒素濾過より大きな濾過能力を期待できると思います。
いくつかの追記・補足
●「脱窒素濾過」を、還元濾過と呼ぶ場合があります。
●「脱窒素濾過」を、反硝化濾過と呼ぶ場合があります。
●「脱窒素濾過」を実現したシステムを「バランスドアクアリュム」と呼ぶ場合があります。
●「脱窒素濾過」は硝酸塩を極端に嫌う無脊椎飼育の分野から進展してきたようで、魚飼育を目的としたシステムは後からになっているような気がします。
●「脱窒素濾過」を、既存のO/Fと組み合わせたシステムや「還元ボックス」を使っている方もいます。
●魚飼育に還元濾過システムを使用するためには、その濾過能力をいかにアップさせるか(脱窒素バクテリアの発生と維持)がポイントのような気がします。